狭間に立ちながら描く、
自分だけの点と線
―わたしたちのサステナブル―
この度、ヤマダヤでは「わたしたちのサステナブル」プロジェクトの第三弾として、アール・ブリュット作家・のぎしょうやさんとのコラボレーションアイテムを販売します。
コラボレーションに伴い、のぎさんから制作背景や思い・創作のきっかけをお伺いしました。本記事がのぎさんの魅力をお伝えするとともに、精神障害への理解を深めるきっかけになることを願っています。
のぎしょうやさんの紹介
1990年東京都生まれ、千葉県在住。
幼少期から絵を描くのが好きで、好奇心が強く感受性が豊かな子どもとして育つが、高校 1年生の時に学校生活で極度の緊張状態から不登校となり中退を決意。その後、いくつかの医療機関を受診し双極性障害Ⅱ型および不安障害と診断される。症状と向き合いながらも高卒認定試験に合格し、広告デザイン専門学校にてデザインを習う。
2025年からアール・ブリュット作家として本格的にアート活動を開始。同年に開催された「Art to You!障がい者芸術世界展 IN SENDAI 2025」では入選を果たした。作品は、繊細な線の重なりと鮮やかな色彩を特徴とし、反復するモチーフによって独自のリズムを展開。積み重ねられた点や線は、見る者に多様なイメージを想起させる。
のぎしょうやさんへのインタビュー
──幼少期のお話から伺ってよろしいでしょうか?
通っていたのがクリスチャン系の幼稚園だったこともあって、かなり純粋な性格だったと思います。いい子にしていると周りの大人が褒めてくれるので、「悪いことはやっちゃダメ」とか、「悪いことは許せない」のような、正義感みたいなものが強かったですね。ですがその反面、周りの大人の反応を気にしながら行動していた感覚が子どもながらにありました。
また、当時はそこまで気にしていなかったのですが、学校の水道の蛇口や手すりを直接触れなかったり、部屋の棚に置かれた物の位置が気になって納得する位置に収まるまで寝られなかったりといったこともありました。自分の中のルールとかこだわりが強かったのかもしれません。
──子どもの頃から、絵を描くことは身近だったのでしょうか?
幼稚園の頃は、普通に外で遊んだりすることが多かったですね。絵を描くのが好きになったのは小学校に入ってからです。小学校に入ると自由帳が配られるじゃないですか。あの真っ白なページがすごく魅力的で。他のノートは線が引いてあるけど、自由帳は何もない。そこに好きなものを描けるのが楽しくて、絵が好きなクラスメイトと迷路を描いて解きあっていました。小学校3、4年生ぐらいのころは、ピラミッドやマチュピチュといった古代文明を参考にして、自分で遺跡の間取りを描くことに夢中になっていました。他には自分でオリジナルのキャラクターの作成も。空想は子どもの頃からとても好きだったと思います。

──本格的にアート活動を始めたのはいつ頃ですか?
絵自体はずっと描いていましたが、アーティストとして活動を始めたのは2025年にスケッチグラムへ加入してからです。それまでは自己満足で暗い絵なんかも描いていたのですが、描くテーマそのものがガラッと変わりました。「見られる」という程よい緊張感が創作のエネルギーに繋がっていると思います。今のようなパターンや模様の作品を描き始めたのもこの頃からです。
──制作スタイルについて教えてください
アナログ作品では画用紙やケント紙に筆ペンとコピックを使っています。自分の理想とする筆体の線を、アイデアが思いついた時にすぐに描ける画材として最初に見つけたのが筆ペンでした。もともとミニマル趣向への強いこだわりがあるので、自室の家具やデスクに置く物は厳選していて数が少なめなのですが、筆ペンやコピックはデスク上のすぐ手の届く位置にいつも置いています。デジタル作品の時はタブレットのペイントソフトを使用していて、場合によってはアナログとデジタルを混合した作品を創る時もあります。
制作ペースはバラバラなのですが、創作に着手すると没頭してしまう癖があるので、描き始めたら完成までほぼ一気に描き上げることが多いです。一度手をつけると完成まで止まれなくて、一気に描き上げちゃうんですよね。夜に始めたら朝まで、みたいなこともよくあります。終わった後はすごい放心状態になりますね。
──和の雰囲気とカラフルな色合いが印象的な作品が多いですが、普段はどんなものから着想を得ることが多いですか?
風景写真をもとにすることが多いですね。あとは音楽やミュージックビデオなどから、「自分だったらこう可視化するな」みたいなイメージから膨らませることもあります。ストリートやアンダーグラウンドなカルチャーも好きで、昔スケボーをやっていたこともありますし、紙にタギング(※自分の名前やシンボルをスプレーで描くグラフィティの一種)を描くこともありました。様々な要素が、自分の中に根付いていると思います。
色は直感的に決めてしまっています。デザイン学校に通っていたので、色彩の基礎知識などは頭に入っているのですが、「この色の差しはこれだな」って、無意識のうちに選択している感覚ですね。
のぎさんが描く色彩豊かな作品
──作品の中で「しんにょう」の形がよく出てきますよね。何がきっかけとなったのですか?
小学生の頃の習字の授業で、しんにょうを書くのがすごく気持ちよかったんです。点を書いて、太いところと細いところがあって、最後に払う。その流れが好きで。
もうひとつ、文字のアートという観点で影響されたのは、アルフォンス・ミュシャという画家のフォントスタイルです。ミュシャはアール・ヌーヴォーを代表する有名な画家なのですが、彼の作品の中で描かれている独自のアルファベットのデザインがとても気に入って、よく真似をして描いていました。そんな中で、以前から興味のあった「和」の装飾や筆体とのシナジーを感じるようになり、筆体でミュシャのようなフォントを描いてみたら面白いのではないかという発想から、造形的に美しいと思った漢字の部首「しんにょう」をモチーフに試行錯誤を重ね、今のスタイルになりました。

しんにょうを描くのぎさん
──制作や日々の中で、ご自身の心の状態と向き合う場面もあったかと思いますが、双極性障害Ⅱ型や不安障害と診断された際には、どのようなお気持ちでしたか?
障害と診断されると、一応楽にはなるんですよ。自分がこんなに苦しんでいたことに対して、ちゃんと医学的に病名がついているんだって。診断が下されると、障害福祉のサービスを受けられたり、公共のバスが半額になったりといった支援も受けられます。ただ、そういう形で生活し始めると、ずっと「障害者」とラベリングされた状態で過ごしている感覚が、たまに「これでいいのかな」と引っかかることがあって。
そうした迷いは多分、障害のある人それぞれの目的によっても変わってくると思います。障害を克服して、健常者と同じ社会に戻りたいという人なら、いつかそのラベルを剥がして復帰しようとするだろうし、自分には難しいだろうと思ったら、そのままそういう生活を続けるだろうし。自分はどうなんだろうと、今でも答えは出ていないんですけどね。
──現在、障害とどのように向き合っていらっしゃいますか?
初めて診断を受けてから今年で21年目になるんですが、いまだに障害との付き合いには苦労しているのが現状です。症状が落ち着きはじめて寛解したと思えば再発してしまったり、今までにはなかった症状が現れたりもします。その度に薬の種類や量を調整して、様子を伺いながら毎日を過ごしています。パッと見、普通に見えるからこそ、いまだに「怠けているんじゃないか」「手を抜いているんじゃないか」と勘違いされることもあって。障害者と健常者の、本当に狭間にいる感じですね。
これは他のうつ病経験があるアーティストの方の言葉なのですが「乗り越えるんじゃなくて乗りこなす」という表現が自分自身にとってもしっくりくるなと思いました。無理に乗り越えるというよりも、浮き沈みする精神的な波をいかにして乗りこなすか。実際のところ、その乗りこなし方を模索すること自体がかなり大変なんですが、ゆっくり時間をかけてでも自分なりの乗りこなし方が見つかれば良いなと思っています。
のぎさんの制作風景と作品
──今回のコラボをどう感じていらっしゃいますか?
自分の作品を通して社会と繋がることができるプロジェクトとして、とても素敵だと思います。
精神的な苦しさを抱えて生きていると、本当に社会から自分を引いていってしまうんですよ。世の中との隔たりを感じてしまうと、症状が悪化してしまって、そのうえ社会からも孤立してしまう。だからこそ、ヤマダヤさんとのコラボのような取り組みは、意義のある機会だと思っています。コンテストで入賞するのも、もちろん認められたということで嬉しいんですけど、企業さんと一緒に何かできるというのは、それとはまた別の意味で「社会とつながっている」という感覚があって。人の役に立っているという実感を強く感じますね。企業さんとのコラボは、作品という媒体を通して自分が社会へ出ていける環境を作ってくれるものだと捉えています。
──今後の展望についてお聞かせいただけますか?
まず、公募へのエントリーをもっと増やしていきたいと思っています。公募へ挑戦する機会をさらに積極的に活かして、入賞できればという気持ちもあります。
アート表現の幅も広げていきたいです。これまでの作風とは少し違う雰囲気の作品に挑戦してみたり、描いてはいたけれどあまり人目に出してこなかったキャラクターイラストも、機会があれば発表し始めたりしようかなと。
また、障害のある方たちへ向けてですが、自分自身も当事者として、苦しさや自分を責めてしまう気持ちはよくわかります。どんなに辛くても、まずは朝起きて夜眠れればそれでいい——そのくらいの心持ちで、少しずつ自分の好きなものと関わっていけたら、という思いが、作品を通じて伝わればと思います。

知っておきたい、精神障害のこと
双極性障害とは?
気分が大きく揺れ動く精神疾患で、気分が高まる「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返すことが特徴です。双極性障害には、激しい躁状態を伴う「Ⅰ型」と、軽い躁状態とうつ状態を繰り返す「Ⅱ型」が存在し、特にⅡ型はうつ病と間違われるケースも少なくない病気です。
不安障害とは?
不安や恐怖が過度に強く、長く続くことで日常生活に支障をきたす精神疾患の総称です。不安障害にはいくつかの種類があり、慢性的に不安が続く全般性不安障害、突然強い不安発作が起こるパニック障害、人前で強い不安を感じる社交不安障害、特定の対象に強い恐怖を抱く恐怖症などが含まれます。
最後に
障害と健常、そのはざまに立ちながら、のぎさんは自分なりのリズムで世界と向き合い続けています。自分の内面を静かに見つめ、一つ一つの線に込められた思考や感覚。のぎさんの作品には、その積み重ねが確かな存在感として刻まれているように感じられました。私たちはその表現とともに、さまざまな価値観が自然に受け入れられる場を広げていきます。
次回はのぎさんとのコラボレーションアイテムをご紹介します。ぜひお楽しみに。
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